パキポディウム・グラキリスの冬越しは落葉させたほうが良い理由

アイキャッチ画像(落葉は大切な越冬準備) その他

どうも、ぞーげきゅうです。
グラキリスをはじめとする夏型のパキポディウムを育てる上で、冬越しは一つの難関ですよね。冬をうまく乗り切れず、春に目覚めることなくそのまま永眠…というのが、枯れてしまうよくあるパターンの一つだと思います。

そして、その冬越しの管理において、一般的には「落葉させたほうが良い」と言われています。

ぞーげきゅう
ぞーげきゅう

私は、落葉するとどうしても元気がないように見えてしまうので、次の春に新葉が芽吹くのを確認するまで、毎年不安でドキドキしています…。

自生地では現地株も休眠中は葉を落としますし、本来、落葉は自然な代謝サイクルの中での現象です。

今回は、グラキリスの休眠に向けた紅葉~落葉の植物生理学上の原理や目的について簡単にまとめ、冬越しは落葉させたほうが良い理由について整理しました。
グラキリスの冬の管理を行う上で、一般的な園芸知識として知っていると活用できると思うので、私自身の備忘録も兼ねて、ご参考になればと思います。

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落葉は大切な休眠準備

グラキリスの落ち葉

パキポディウム・グラキリスは、自生地のマダガスカルでは気温が高くて水が豊富な「雨季」に葉をつけて成長し、気温が下がって乾燥する「乾季」になると落葉して休眠しています。

▼グラキリスの自生地の気候についての記事はこちら

そして日本でも、成長期の夏が過ぎて秋になり、気温が下がってくると休眠に向けて落葉が始まります。
ただしこの「落葉」は、単純に寒さで葉が弱って枯れ落ちているわけではないんです。

戦略的に栄養生産を諦める

植物の光合成速度(効率)は周囲温度に影響を受けるため、現地では乾季に近づき気温が下がってくると、光合成のパフォーマンスが落ちます。
そして何より、グラキリスが自生しているマダガスカルは乾季にはほとんど雨が降らないため、光合成に必要な水も不足します。

そういった環境では、葉を維持するために必要な栄養と、光合成によって葉から生成できる栄養の採算が合わなくなります
そんな状態で葉をつけていても、葉はいずれ枯れてしまいますし、株本体の栄養素が不足し、生存そのものにも危険が及ぶ可能性が出てきてしまいます。

そのため、乾季が近づくと能動的に自ら葉を落とし、休眠状態で次の雨季までをやり過ごすのです。

葉にある栄養を回収して再利用する

グラキリスが休眠に向けて落葉するとき、ただ枝から切り離して捨てるのではなく、葉の中の使える栄養をできる限り再利用します。
そのために、葉の光合成器官である葉緑体を分解し、タンパク質や脂質などの栄養を本体(枝・塊根)側へ回収してから落葉します。

そして、このときに回収した栄養は、厳しい乾季を乗り切って次の目覚めの季節に新葉を出したり花を咲かせるエネルギーになるのです。

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なぜ紅葉(黄葉)するのか?

紅葉(黄葉)は、落葉前に葉の栄養を回収する過程で起こる現象です。
これらの原理も簡単に理解しておくことで、自分の育てている株が今どういう状態なのかを葉の色から想像することができます。

葉の色の変化は、3種類の色素の分解や生成に起因しています。

色素による葉の色の見え方の違い
葉の色を変えているそれぞれの色素。

葉が緑色に見える理由

葉緑体の中には光合成色素の代表であるクロロフィル(葉緑素)があります。
これは光エネルギーを栄養に変換する働きで光合成の中心的な役割を果たしており、青色と赤色の光を吸収し、緑色の光を反射・散乱しています。

そして、葉緑体の中にはこのクロロフィルが最も多く存在しているため、通常の葉は緑色に見えています。

葉が黄色くなる理由

葉緑体の中には主にクロロフィルの他に、カロテノイドという光合成色素があります。
これは青色の光を吸収し、緑~赤色の光を反射するため、カロテノイドは全体として黄色く見えます。

そして、休眠に向けた落葉の前には、次の理由によりカロテノイドよりもクロロフィルが優先的に分解されます。

  • カロテノイドにはミネラル分が含まれておらず、クロロフィルには含まれている。
  • カロテノイドには強い光から細胞を守る作用があるため、クロロフィルと併せて分解すると葉の細胞が壊れてしまい、栄養回収のプロセスに支障をきたす。

そのため、クロロフィルが先行的に分解されて緑色が薄まり、黄色く見えるカロテノイドが残ることで、葉が黄色くなるのです。

葉が紅くなる理由

紅くなった葉

葉が紅く見えるのは、アントシアニンという色素によるものです。
これはクロロフィルやカロテノイドとは異なり、元々は葉の中に無いところからわざわざエネルギーを使って生成される物質で、カロテノイドと同様に強い光から細胞を守る作用があります。

しかし、このアントシアニンがなぜ生成されるのかは諸説あってハッキリした理由は解明されていないようですが、有力な説があります。

カロテノイドはタンパク質と結合した栄養価に富んだ色素だが、アントシアニンは回収を必要としないありふれた元素で作られる色素である。
そのため、強い光から細胞を守るカロテノイドが分解・栄養回収されていく中で、光による細胞の破壊を防ぐために、カロテノイドの代替的な役割として生成されている。

ということで、葉緑体の分解・栄養回収プロセスを完遂するための補助的な目的で生成されるようです。
最終的に回収もされないので、作り捨て(使い捨て)の色素ですね。


ただ、紅葉に関しては、グラキリスの場合全ての株に必ず見られる現象ではありません。
むしろ私の育てている株だと、黄葉した後はあまり紅くならずに茶色くなって落葉する株が多いですね。

紅葉しない株
今年この2株は黄色いまま葉を落としている。

下の写真は私が育てている中で今年一番分かりやすく紅葉したグラキリスですが、同じ株でも枝によって紅葉の度合いが異なったりします。

1株に3色の葉がついている
3色のカラフルな葉のグラキリスも趣がある。
右の枝は深く紅葉したが、左の枝は薄いオレンジ色止まりだった。

植物全般としてなぜ紅葉するかが解明されていないくらいなので、グラキリスが紅葉したりしなかったりする理由も定かではありません。

当然、環境や栄養状態などが影響しているはずですが、原理的にはエネルギーを消費して行われる現象なので、その観点から考えると、紅葉しない方が株にとっては良いのかも?知れません。

…が、真っ赤に紅葉した株もちゃんと冬を越していますし、やっぱり綺麗なので、これに関してはあまり深く考えずに楽しく鑑賞したいところですね!

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【まとめ】冬越しは落葉状態が万全

ここまでの内容から、気温の低下に伴う紅葉・落葉は決して寒さでダメージを受けているのではなく、むしろ確実な冬越しに向けての前進であると言えます。

秋の落葉は順調な証拠

落葉しているグラキリス

自生地の乾季でも落葉していることに加え、落葉がこれまで書いたようなプロセスで行われる現象であることから、やはりグラキリスにとって落葉は理にかなった自然な姿であり、重要な冬支度です。

もちろん育てる環境によって違うので一概には言えませんが、太陽光に代わる十分な光と適温を確保できないのであれば、冬場に葉をつけていてもエネルギーを消耗しますし、光量不足で徒長してしまうことにも繋がります。

中途半端な状態で過ごす期間が長ければ長いほど栄養の収支が悪化するため、それなら意図的にでもスパッと落葉させて冬は休眠状態で乗り切るのがベターです。

ちなみに、私はこれらを踏まえて、最低気温10℃くらいを目安として(自生地では、一番寒い日で10℃を下回る程度のため)屋外で寒さに十分当て、しっかり落葉させてから屋内に取り込むようにしています。

なかなか落葉してくれない場合も…

とはいえ、なかなか思うように落葉してくれない株がいるのも事実ですよね。
こちらの株は、ずっと屋外管理で11月に入り最低気温が10℃近くまで下がっても全く落葉の気配がありません。

なかなか落葉しない株
どちらも今年迎えた株。
11月初旬でも真夏のように葉が青々としている。

植物が休眠に入るトリガーは温度条件だけでなく、日照時間や水分量なども関係しています。
落葉を促進するのであれば、屋外で寒さに当てつつ断水気味にしていくぐらいでしょうか。日照時間は冬至に向けて自然と短くなっていきますが、人為的に暗い場所で管理したりすればより落葉を促進できるのかも知れません。

しかし、無理に落葉させようとして別の弊害が出てしまってもいけないので、そこは状態を見極めながら。
私自身、今までグラキリスが落葉しないまま冬に突入した経験がないので、今年迎えたこの2株が今後どういう経過を辿るのか、注意深く観察していきます。

2022.1 追記

この後、最低気温10℃を目安に室内窓際へ取り込み、他の株と同様に管理していましたが、右の株は12月初めに、左の株は1月8日に完全落葉しました。

▼この2株の落葉までの経過記録はこちら



ということで、休眠に向けた落葉とその過程での紅葉(黄葉)について書いてきました。
物言わぬ植物ですが、環境に適応して生き抜くための強かな生命活動が静かに機能している…あらためて、植物ってすごいですよね!

この時期、葉が枯れたように落ちていく姿は寂しいですが、落葉は来春に向けた積極的なチャージなので、安心して見守りましょう。
それでは、また!

▼参考文献

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